十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

トルソー! トルソー!! トルソー!!!(松尾寺・千手観音残闕)

仏像の魂ここにありと叫びたくなるような、すごい仏像を見ました。

奈良・松尾寺の"焼損仏像残闕"(要するに焼け残り)
通称
千手観音トルソー(画像)
です。

松尾寺のホームページで写真を見て、何だか珍しいものが見られるらしいと、キワモノ感覚で、あまり期待もせずに見に行ったんですが、
それはそれは、写真などからは想像もできないほどの美しさ。

頭も腕も装飾品も衣も、ほとんど焼け落ちて胴部と脚部だけがかろうじて残っている悲惨な状態なのですが、
前に東寺の回で紹介した、痛々しい四天王の残闕なんかとは比べものにならない、信じられないような美しさを醸し出している、不思議な像なのです。

何が美しいかというと、何といってもプロポーション
千何百年前の人が作ったとは思えないような芸術品です。
特筆するなら腰が美しい。

極端過ぎるほどの腰のくびれが、華奢な上半身を優しく支えていて、萌え心をくすぐります。
このくびれにして、この上半身あり。
この上半身だからこそ、このくびれが美しい。

また、腹を押し出し、まるでダンサーのごとく優雅に腰をくねらせた骨盤の、これもやり過ぎなくらいの傾きは、エロスさえ感じさせます。

このプロポーションは、日本一美しいと言われる薬師寺の薬師三尊像をそれを凌ぐものだと、ぼくは考えています。

反対に脚はどっしりと大きく、一見不自然に思えますが、疑似遠近法の効果で、像を大きく見せるのに十分な効果を発揮していて、上半身と絶妙なバランスを保っています。

顔がないという点も、ミステリアスに想像力をかき立て、美しさの要素となっています。

これを掘った仏師は天才です。
焼ける前の完全体を見たかった。
しかし、胴だけの状態にこそ、この仏像の美しさがあるという気もします。

トルソーの名付け親で、この像を世に知らしめた随筆家の白洲正子さんが書いておられるように、まさに「正しく自然の木に還元した菩薩」という表現がぴったり当てはまる仏像です。
この随筆の一部は、松尾寺のサイトで見ることができます。

ぼくがここでいくら説明しても、写真を見せても、この仏像の美しさは1000分の1も伝わらないと思います。

9月1日〜11月10日、宝蔵殿にて公開です。
向かって右斜め前(写真とは逆の位置)から見るのが一番美しいです。

仏像の新しい見方がここにあります。
是非、足を運んでみてください。

●松尾寺
 拝観時間 AM9:00〜PM4:00
 拝観料 境内自由(トルソーは300円)
 駐車場あり(無料)


大きな地図で見る