十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

マイアングル・其の1(東慶寺・水月観音)

多くの仏像には、ぼくだけのベストアングルがあります。

彫刻作品が、絵画や写真などと最も違う点は、当然ながら立体か平面かという点です。

言い方を変えると絵画や写真は、元々ある立体素材を、任意の角度から切り取り、その姿を平面に表現したものです。
つまり鑑賞者は、素材のアングルを作者にマルッと委ね、それを含めて作品を評価することとなります。

一方彫刻作品は、見る側がそれを自由に決められるわけです。
ぼくは何かと写真を撮りたい方なので、歩いていてもよく風景を視界というフレームに嵌め込む作業を無意識にしてしまいます。
あ、ここの風景はこのアングルで写真にしたらいいな、などと想像してふと立ち止まってしまったり。

そこで、なぜぼくが、これほど仏像に魅了されるのかを改めて考えたとき、その原因の一つは、仏像は被写体なのかもしれないということに気がつきました。

仏像は参拝者の立ち位置を想定して作られるので、正面で正座して拝むのが正当な作法。
ちょうど仏像と目線が合い、落ち着いて会話できる位置です。
ぼくもまずはこの位置から始めます。

そのあと色々な角度から仏像を眺めているうちに、これぞこの仏像を見るに相応しい場所だという位置が見つかります。
それがぼくだけのベストアングル、言わばマイアングルです。

ところが中にはそのアングルを、お寺側でバッチリ決めてしまってるところがあります。
例えば、鎌倉の東慶寺にある鎌倉時代の傑作、水月観音遊戯坐像(すいげつかんのん ゆげざぞう)です。
普段は丸い小窓の中に収められていて、その造形美とともに、すでにアートとして完成されています。

大きな月を光背に背負いながら、水面に映ったその月を気だるく眺める、さすがは尼寺たる優美な姿。
アングルはかなり限定されますが、体を投げ出して座る美しいフォルム(この座り方が遊戯坐)を堪能するベストポイントは、まさにこの角度であろうと思わせます。
実は鎌倉はぼくもまだ行ったことがなく、水月観音の拝観は悲願の一つでした。

そんな折、奈良国立博物館で実物を見る機会に恵まれました。
あろうことか、安置場所を小窓からガラスケースに変えての展示であり、360度全方位からの鑑賞が可能となったのです。(つづく)