十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

マイアングル・其の2(鎌倉仏像館/他)

前回の続き。

さて、アンニュイな雰囲気で衆生を魅了する水月観音ですが、その表情はそれとはうらはらに、誘惑的な恍惚さとも、排他的な冷ややかさともとれる妖艶さに溢れています。

この面持ちが、ぼくのホットスポットにハマってしまったようで、水月観音の魅力の本質は、美しいフォルムもさる事ながら、この憂いを醸し出す妖しげな眼差しにあるのだと結論付いたのです。
そうなったら最後、ぼくの視点は、向かって左斜めから若干煽り気味に上半身を眺めるビューポイントに、半ば固定されてしまいました。

水月観音のマイアングルにだいたい近い構図の写真が、展覧会の図録でも掲載されていたので、ぼくが取り立てて変わった趣味ではなかったんだと一安心しました。

このように、どこから眺めても素晴らしい仏像のベストアングルを探すのも楽しいのですが、どうにも解せないアンバランスな仏像のなかに、光り輝く角度を見つけたとき、仏像に新たな命を吹き込んだような気分で嬉しくなったりもします。



例えば、あくまでぼくの私見ですが、鎌倉国宝館の十二神将の中の「寅神」は、どう見ても腹痛極まったときか何かのスタイルとしか思えませんでした。
これは何かの間違いだろうと思って色々舐め回しているうちに、見つけました。

向かって左側にグイッと寄って、少し下から見上げたとき、腹痛の寅神が、不屈の鬼神となって突進してきたのです。
写真撮影が禁止であり、ぼくに絵心がないのが悔やまれますが、長尺の戟(げき)と、力強い右脚で大地を大きく蹴って、一気に敵に飛び込む姿でした。


また、東大寺法華堂の「執金剛神像」は、東大寺建立以前から同地を護る善神像として全国的にもファンが多い秘仏でありますが、何を緊張しているのか、怒りで硬直しているのか、造形にぎこちなさを感じずにはいられませんでした。

古代の仏像に慶派のリアリズムを求めるのも酷なんですが、いろんな角度から観察したところ、左足もと、つまり向かって右下に寄って大きく煽り見たとき、金剛杵を敵に振り下ろす直前の、迸る躍動感が見事に伝わってきました。
法華堂執金剛神像のマイアングルはここです。

もちろん、このアングルが正解ではありません。
ひとつの花を写真に収めるとき、撮影者によってまったく違う作品が生まれるのとおなじです。
それはカメラマンの感性がそれぞれ異なるからで、カメラマンの数だけ被写体の姿があるところに、写真の面白さのひとつがあります。

同様に、視界を擬似ファインダーにして構図を楽しむいうぼくのスタイルは、ちょっと変わった見方なのかもしれませんが、仏像の彫刻としての魅力が何倍にも広がると思います。
正面からしか拝んだことがないという方は、ちょっと視点を変えて仏像の声を聞いてみてください。
人のまだ知らない、仏像の新しい側面が見えてくるかもしれません。

⚫︎鎌倉国宝館
 開館時間 午前9時〜午後4時30分(入館は午後4時まで)
 休館日 月曜(月曜が祝日の場合は次の平日)
     月に一度の展示替え日、館内整理期間、年末年始等
 入館料 300〜600円(展示会に準ずる)
 TEL 0467-22-0753
 駐車場なし