夢を背負って(達身寺2)
前回のつづき。
達身寺の仏像の主な謎は3つ。
(1) 仏像のお腹が妊婦さんのようにポッコリ(達身寺様式)。
(2) 同じ種類の仏像がたくさん。
(3) 未完成の仏像もたくさん。
多くの先生が、この謎に挑戦しているものの、なにせ文献が残っていないので、
銘々にいろんな説を唱えています。
まず、(1)について、
インドの呼吸法から来ているとの説があります。
腹を膨らませて息を吸い、凹ませて吐く(逆もあります)、
このヨガの呼吸は、禅や瞑想の根幹となるものですので、
仏師はこの形にこだわったのかも知れません。
また、膨れたお腹に妊婦を重ね、命の誕生を見る説もあります。
これは円空の回でも書いた"霊木化現"につながります。
(2)と(3)について有力なのは、工房説。
これだけ沢山の仏像があるということは、
ここで仏像が大量生産されていた可能性が高い。
中山寺など、中国地方周辺の寺の何カ所かに、
この様式の仏像があるそうですが、
この工房は、そんな寺からの受注を受けて
仏像を生産していたのではないかと考えられています。
製造途中で焼き討ちにあったのだとすると、
未完成の仏像があるのも肯けます。
同じように有力なのが、仏師養成所説。
16体ある兜跋毘沙門天もそうなんですが、
これだけ同じ仏像がたくさんあるのに、
どれも非常に個性的で、同じ仏師が彫ったとは思えません。
客仏(他所から持ち込まれた仏像)説もあるほどに、タッチが違います。
若き仏師がここで腕を磨いていたとしてもおかしくありません。
東大寺の文献には、
「丹波講師快慶」の記述も見つかっています。
もしかすると仏師快慶が、
この養成所で教鞭を執っていたのかも知れません。
ところで、この寺の十一面観音には、
頭上面すべてに貌が彫られてないものがあります。
つまり未完成。
ただ、よく見ると、"彫っていない"のではなく、
十面すべてがツルツルに磨かれていて、
あえてノッペラボウにしているようにも見えます。
これも、神木から徐々に仏が出現している姿、
開基僧・行基の教えを受け継いだ、"霊木化現"説につながりそうです。
帰りがけに、お寺の前で、ひとりのおばあさんと話しをしたのですが、
彼女は、目を輝かせて、工房説を語ってくれました。
話しているうちに、達身寺がある丹波市氷上町の人たちは、
彼女だけでなく、誰もが、
"仏師の郷・氷上"を心から夢見ているのだということがわかりました。
今年、氷上町の夢と希望を背負って、
達身寺の謎に、最新技術のメスが入れられます…
●達身寺
拝観時間 AM9:00〜PM4:00
拝観料 400円
駐車場あり