十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

「仏像の声」/西村公朝・著【新潮文庫】

仏像の声 (新潮文庫)
仏像の声 (新潮文庫)

本当にいい入門書です。

著者は既に入滅されておられます。
絶版本で、古書店でしか入手できないので、番外とさせていただきました。

一見、堅苦しい表紙で、帯の宣伝文句と内容がミスマッチに思われるでしょう?
実際、中身は細かい字でいっぱいです。

ところが、勇気を出して読み始めると
これが非常に面白いんです。

著者は生前、お寺の住職をされていて、
だから、たとえ話がとても上手でわかりやすく、語り口調もリズミカルで、一気に読んでしまいました。

でも、この本の本当のすごさは、そこにあるのではありません。

ぼくはこの1年間、いろんな入門書に目を通しましたが、
それらのすべてが、まず、如来、菩薩などの見分け方から始まります。
そして有名どころを例にとって、これは何という仏像で、こんな姿をしていて…

この著者はそんなは話はしません。
そんなのは後でいいから、
とにかく仏像の声を聞いてみよう、と言っています。
そこんところを分かった上で、本尊を作るようにと
お寺に注文もつけている。
明らかに他とは一線を画しています。

当然、仏像は声を発しません。
ではどうするか。

外国人でもジェスチャーを見ればだいたいわかる、
ということで、この本には、
仏像のジェスチャーのことが実に詳しく書かれています。

簡単なところでは、
立像は「行動せよ」、
座像は「まあ、おちつけ」
というメッセージなんだそうです。
知ってました?

また、10本の指はそれぞれ意味をもっていて、
曲げたり、組み合わせたりすることで、いろんな言葉や法力が生まれるといいます。

これを応用して、仏像の印相が我々に伝えている事柄が、
著者の軽妙な語り口で解明されていきます。

阿弥陀像のOKサインと、左右の手の高さが違う理由。
万能薬の印相って?
大日如来の智拳印の正体。
弘法大師像の金剛杵を持つ右手が、不自然に返っているのはなぜか。

とまぁ、今まで何の疑問も持たず、記号として受け入れていたものすべてに、
仏像あるいは仏師からのメッセージが込められているのでした。

当然、この本だけで、仏像の言葉がすべてが分かるほど、単純なものではありませんが
少なくともこの本は、
今まで封印されていた扉を開き、その中から聞こえてくる「声」に耳を澄ます、きっかけと手がかりを与えてくれることでしょう。