十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

最強暴悪大笑面(渡岸寺観音堂1)

先日、滋賀県長浜市を旅してきました。
近江地方は、福井県小浜市に並ぶ仏像の宝庫。
この地方の仏像については、色々思うところはあるのですが、
まださほど廻ったわけではないので、あまり無責任なことは書けません。

だから今回は、その中の一寺、
 「向源寺・渡岸寺観音堂」 の、
国宝・十一面観音立像について書いてみようと思います。
Google マップ

ぼくも誤解していたんですが、渡岸寺(ドウガンジ)は、お寺の名前ではなく
"高月町渡岸寺"という、地名からきているのだそうです。
だから、お寺の名前は向源寺で"渡岸寺って所にある観音堂"
という意味になります。

さて、ここの観音様は、得てしてキワモノ扱いで紹介されます。
というのも、後頭部にある面、いわゆる"暴悪大笑面(ボウアクダイショウメン)"があまりにも強烈なのです。

一般的に、十一面観音の後ろの面は、煩悩だらけの人の愚かさを笑い飛ばしている表情になっていて、
暴悪大笑面と呼ばれています。

多くの寺院の観音像は、それが光背で隠れていたり、背面が壁で見られなかったり、
また、見えても表情がよくわからなかったり…。

でも、ここの観音像は、光背もなく、後ろ姿も自由に鑑賞でき、面の表情もご覧の有様。
暴悪大笑面の名前に恥じない笑いッぷりです。

巷では、この面の話題ばかりが取り上げられ、正直ぼくもこれが目当てで参拝しました。

結果、この観音像の本領は、別のところにありました。

後ろの貌は、単なる客寄せのための広告塔に過ぎなかったといってもいいくらいに、
観音像そのものが、ずば抜けた魅力を持っていたのです。

月並みなところからいうと、
鼻筋の通った精悍な顔立ち、柔和で美しいプロポーション、
特にその腰つきは、薬師寺薬師如来像に迫ります。
全体のバランスや天衣の滑らかさ、頭上面の表現に至るまで、妥協を一切許さない、逸品中の逸品と言えるでしょう。

平安初期(寺伝では奈良時代)に木彫で作られたものとは、俄(ニワカ)に信じ難い完成度の高さです。

戦国時代の戦火に巻き込まれ、堂宇はすべて焼失したにも係わらず、
人々の手によって地中深く埋められて難を逃れた、奇跡の仏像。
よくぞ救ってくれましたという感じです。

さらにこの観音像には、他の観音像にはない、仏師の独特な感性と、こだわり精神を見ることができるのです。

この仏像の本当の凄さを、次回お話します。

                       つづく

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