十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

秘仏文化の正体

以前もこの日記で秘仏について書いたことがありましたが(http://d.hatena.ne.jp/Pretty-Puppy/20101020)、先日、60年に一度だけ開かれるといわれる秘仏が、60年を待たずして公開されるということで飛んでいきました。
なんでも、倒壊していたお堂の再建記念だそうです。

また、別の寺では住職1代に一度という秘仏公開にあたって、
「2年前に公開してるんですけど、公開するにふさわしいイベントが3年後にあるから、また開けてもいいかな」などと言います。

秘仏の決まりなんて、案外アバウトなんだなぁ。
じゃあ秘仏って一体なんなんだ、ただの出し惜しみなのか?
ということで、調べてみました。
いくつかの興味深いパターンがわかりました。

(1) そもそも秘仏っていうのは、日本のオリジナル文化なんだそうです。
古来、日本には八百万(ヤオヨロズ)の神々が、人々の心にしみこんでいました。
トイレの神様なんか、まさにそれ。

神様というのは姿の見えない不思議なもので、
風雨や雷、日照りなど、人知の及ばない自然現象はすべて神様のせいだと信じられていました。
(神様が人型を成すようになったのは、後々のことです)

そこに外来種である仏教が割り込んできて、
神仏習合という形で神様に取って代わったわけですが、
元は神であったものに対する畏敬の念が、霊木などで作られた仏像をさらに神格化、
見てはいけない恐れ多いものとして秘仏とされました。

奈良・東大寺二月堂の観音菩薩(絶対秘仏。永久に開帳されません)は、厨子の前に鏡が祀られているので、
恐らく、霊験ある神様としての扱いを受けているのだと思います。

葛井寺の千手観音なんかは素材自体は漆なのに、
仏像の中の心棒が霊木だというだけで秘仏になっているそうです。

初期時代の秘仏はこのパターンが多いようです。

(2)仏像には、荒くれ者で手に負えないものも、中にはいます。
性欲の塊
歓喜天(聖天)」
が代表的です。

この像は、男女2人の歓喜天が情熱的に抱き合っています。

でも女性の歓喜天は観音様が化けたもので、
観音様がこうやって、ずっと押さえてないと、彼はすぐ暴れ出してしまうのです。

でも何も知らない者がこの歓喜天像を見ると、きっと誤解してしまうことでしょう。

愛欲は、ときには超人的な力を人間に与えますが、
そのパワーを自由に扱うにはかなりの鍛錬が必要で、
油断すると暴走して取り返しのつかないことになります。

だから歓喜天秘仏とされ、修業した者以外は、おいそれと見てはいけないのです。


(3) 秘仏は日本の文化だと書きましたが、
稀にインドで書かれた教典に、隠すように定められているものもあります。

例えば、虚空蔵菩薩の教典には、
恐ろしく頭が良くなる秘術が書かれています。
そこには像の祀り方として、

"像を作ったら、塔の中に安置し、布でくるんでおきなさい"

とあります。

弘法大師はこの秘術を習得して、
大量の教典を一瞬で暗記したということなので、
当時はさぞかし虚空蔵ブームが起こったことでしょう。

(4) お寺には、「縁起」というものがあります。お寺が興った由来のことです。

そこには、たいてい寺にまつわるSF話がが書かれています。

北極星が降ってきた、
観音菩薩が空を飛んできた、
拝んだら難病がみるみる治った、

などなど。

多くは、鎌倉時代以降に書かれたもので、
客寄せのための話題作りだと思われます。

縁起に霊験を与えることで、本尊が神格化、
また、秘仏にすることで、さらに参拝価値が上がります。
それを定期的に公開することで多くの参拝客が訪れる、
つまりは"もったい付け"パターンです。
収益は寺院の維持管理に充てられました。

恐らくこのパターンが一番多いような気がします。

(5)夢の中で、秘仏にするよう仏さまから命じられた、
というものもあります。
何らかの意図があるわけでもなく、直々に夢のお告げがあったのだから、
それを守らないわけにはいかない。
ということで、今に至るというもの。

東京・浅草寺の絶対秘仏聖観音菩薩はこのパターン。

(6)その他、盗難防止、品質管理という理由もあります。
無住寺のため、結果的に秘仏となっているものもあります。


以上、つたない調査ですが、秘仏の正体が少し分かってきたような気がします。
(4)のパターンなんかは、お寺の都合でどうにでもなる感じですねえ。

33年に1度だった秘仏を、
収蔵庫の完成とともに毎年開帳するようになったお寺もありますし、
何十年に1回といってみたところで、
我慢しきれず、何かのイベントの折に中開帳といって公開したりもしています。

でも、たとえ都合で出し惜しみされてる秘仏であろうと、
それが我々見仏人にとってモチベーションとなっているのも事実だし、
すべて常時開帳となれば、突然の中開帳に興奮することもない、
何とも味気ない見仏ライフとなってしまいます。

というわけでこれからも、ありがたい秘仏と仲良くお付き合いさせていただきたいと思います。