十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

平成のシンデレラ(東大寺四月堂2)

前回のつづき。

さて、晴れてミュージアムの御本尊となった四月堂の千手観音。
馴染みの風景が見られなくなったのはさみしいけれど、ミュージアムならではの夢のコラボが実現しています。

かつて法華堂の不空羂索観音の脇侍でお馴染みの、日光月光両菩薩が、本尊千手観音立像の脇侍となったのです。

世に言う夢のコラボは一夜限りが一般的ですけど、このトリオは今のところ解散する予定はなく、ミュージアムオリジナルの新三尊の誕生というわけです。
この三躰の像についてはまだ言い足りませんが、それはまた今度にして、
残ったもうひとつの問題は、四月堂の新本尊について。

「二月堂の十一面観音像が、四月堂の本尊になるよ」
って話を聞いた時は、ぶっ飛ぶほど驚いたものです。
普通、二月堂の十一面観音というと、ご本尊の十一面観音と思ってしまうじゃないですか。
あそこの御本尊は厨子の中に固く閉ざされ、お水取りの練行衆のお坊さんですら誰も見たことがない、あのあるのかどうかもわからない"絶対秘仏"なのだから。

だから当然、そんなことはあるはずがなくて、新本尊に選ばれたのは、もともと明治時代の廃仏毀釈により廃寺となった別のお寺から、二月堂に預けられてきた仏像、つまり客仏なのだそうです。
でもおかしいな、ぼくは二月堂に置かれている仏像なんて客仏も含めて見たことがありません。

尋ねてみると、当初は祀られていたそうです。
ところが、毎年行われるお水取りの儀式の際、悪いけど邪魔ですということになって、収蔵庫に一旦片付けられ、お水取りが終わると、また元に戻すという作業がおこなわれていました。

そのうち、いちいちこんなことするのはめんどくせーし、運んでる時に壊れたりしても大変だということで、こりゃもう片付けたままにしておこうよ、となってしまったのです。
二月堂に仏像が一体も祀られていないのは、修二会の時に邪魔だという理由からだったんですね。

住んでたお寺は壊されるわ、不用品だと片付けられるわと、踏んだり蹴ったりの十一面観音様。
そんな不遇の仏像に、突然スポットライトが当たったのは、それから60年経ったときでした。
しかも今回は四月堂の正真正銘の本尊として、マイホームを与えられたのです。
まさかここに来て主役の座が回ってくるとは、本人にしても青天の霹靂だったことでしょう、まさに平成東大寺ののシンデレラボーイです。

平安から鎌倉期にかけての作とされる檜の一木造りで体高約170cm。
文化財的価値も申し分ない仏像ですが、お堂を突き破らんばかりにみっちり詰まっていた266cmの千手観音のあと釜なだけに、細身で二本腕のこの仏像はイマイチ存在感が希薄で、ちょっと重荷を負わされた感は否めません。
本人も何だか所在なげな感じ、というのが第一印象でした。

しかしながら、よくよく見ると明治に補完された光背の周りでメラメラ燃える光炎と、堂々たる直線で放たれる放射光背。
このふたつの立派な光背が、魔法使いがかけた魔法のように、華奢でか細い観音像に不思議なパワーを与えているような気がして、だんだんとこの歴史ある四月堂に相応しく見えてきました。
本尊として定着する日も近い。