十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

十一面観音、緊急出動!(渡岸寺観音堂3)

仏像の時間初の、全3回シリーズ。前回の続き。

渡岸寺観音堂・十一面観音像。前方に集結した頭上面の先にあるものを、立像の姿から推理します。

一般的に、観音立像の立ち方には

(1)直立…通常態勢。衆生の声にアンテナを張って、警戒している姿です。
(2)片足の親指を上げる…何かを察知し、出動態勢をとっています。
(3)片脚を浮かせる…SOSを受信、今すぐ出動。

の3パターンがあります。


上の写真は、奈良・法華寺の十一面観音像の脚ですが、
右足親指をもたげ、同時に片脚を浮かせて、今まさに歩き出そうとしています。

しかしその上をいくのは、渡岸寺観音堂像。
正面から見ると、腰をくねらせ、とても優美で落ち着いた立ち姿をしています。


←ところが、側面に回ると一転、あまりにも不自然なまで前傾姿勢ではありませんか。

反対面の資料がないので、ぼくの拙いイラストでどこまで伝わるか分かりませんが、
左側面からみると、右足を半歩踏み出しているのがもっとよく分かるんです。

ここから先は完全な私見です。
この傾きを見て真っ先に感じました。
「動き出してるっ!」と。
ここまでの体重移動は歩行以外には考えられません。
前述の?が出動直前の姿とするならば、この像は行動直後、或いは進行中の姿といえましょう。

救うべき目標をしかと見定め、
それ故、周囲を360度警戒していた頭上面は、一斉に前方に集結し、その目標に貌を向け、全力で進み出したのです。

この像ができた奈良時代
民は飢え、宮廷では権力争い、天然痘が大流行して、災害も多発していました。

観音像の向かう先は、仏にすがり、この像を造らせた聖武天皇本人なのです。

それにしても不自然なのは、またも後頭部の暴悪大笑面。
切実な聖武天皇の悩みに対して、
これを彫った仏師は、なぜこれほど不謹慎なまでに、歯をむき出しにして大笑いするような表情に仕上げたのか。

これも想像ですが、
全身全霊をもって救済に向かう観音像を表現した一方、
東大寺など、全国各地に無数の寺を建立し続け、
世の中は仏がなんとかしてくれるだろうという、聖武天皇の無責任さを、この暴悪大笑面の顔を借りて、暗にそれを揶揄していたのかもしれません。

そしてこれからも、この暴悪大笑面は、その貌を見て笑いにやってくる観光客の、心のさもしさを、いつまでもあざけり笑い続けることでしょう。

(※向源寺の創建について、寺伝では奈良時代とされますが、少なくともこの十一面観音は平安時代初期の作になります。執筆当時は奈良時代作と思い込んでいました。2018.9.9訂正)

●渡岸寺観音堂向源寺
 拝観時間 午前9時〜午後4時
 拝観料 300円
 駐車場 あり


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