十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

名プロデューサー、俊乗房・重源!(浄土寺1)

太陽が西に傾き、ほどなく日没を迎えようとする頃、
その空間だけは、まばゆい朝を迎えます。

薄暗い浄土堂に、徐々にが光が充ち満ちてきたかと思うと、
金色に輝く、巨大な阿弥陀如来が降臨します。

その正体は、鎌倉時代の高僧、俊乗房重源(シュンジョウボウ チョウゲン)が仕掛けた、
壮大なイリュージョンでした。

兵庫県・「浄土寺」は、陽光が極楽浄土を描き出す、特殊な演出が施されていることで有名な寺院です。
重源というお坊さんが造りました。

重源さんは平氏の南都焼き討ちで全焼してしまった、東大寺の大仏殿の再興の立役者ですが、
その前の景気づけにプロデュースしたのが、この浄土寺なのです。

その重源を仏法の師と仰いでやまなかったのが、かの名仏師・快慶で、
浄土寺浄土堂には、快慶が師匠のために彫り上げた三尊像が隆々とそそり立っています。

高さ5.3mの阿弥陀如来と、その脇に寄り添い侍る3.7mの2体の菩薩像。
その大きさもさることながら、
心の奥を見透かすように強く、それでいて慈悲深い視線。
見る角度によって変わる目の表情の多彩さは、他の大仏にはない奥深いものを感じます。
まさに、快慶渾身の一作といえましょう。

ノリにノッていた重源は、浄土寺境内全体に仏の世界を再現してしまいます。
東の空に薬師さんの「浄瑠璃世界」、西の空には阿弥陀さんの「極楽浄土」が存在するという仏界になぞらえて、
敷地の東に本堂の薬師堂、西には浄土堂を造り、その真ん中に、現世を表す池を配置したのです。

極めつけは浄土堂を舞台に施された特殊演出。


堂内に西日が差し込み、
陽光が床面に反射、
朱に彩られた幾重もの梁が、空間を赤い光で満たします。
その光を全身に受け、暗い堂内にそびえた三尊像が、煌々と光り輝くのです。


そこには確かに阿弥陀来迎の姿がありました。

命の陽が地平の彼方へ堕ちようとするその瞬間、
西の空から朝日の如く現れて、
あまねく世界を後光の光で照らしながら、衆生を極楽浄土へ導くために来迎した、阿弥陀如来の姿でした。

見るものを現世において浄土に誘う。
それが名プロデューサー、重源上人の目論見だったのです。

しかし、見事に再現された浄土の秘密は、西日と三尊像だけにあったのではありません。
この浄土堂の構造こそ、演出効果を最大限に引き出すために、なくてはならないものなのでした。
 
  〜 つづく 〜