十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

時空を越えたアイコラ(秋篠寺2)

◉伎芸天である証拠はどこにもない

前回に引続き、伎芸天。

古代インドの神、シヴァの頭髪の生え際から生まれた(深く考えないで!)芸能の女神。

もし彼女の芸を動画にしてネットで公開すれば、文字通り「神」というコメントが付きまくることでしょう。

仏教界一のあらゆる芸能の達人。
それが伎芸天です。

そして伎芸天の像があるのは、我が国で唯一、秋篠寺だけなのです。


ところでこの伎芸天、ちょっと変わった身の上なんです。

一般的に仏像の姿については、経典などに特徴が定められています。
例えば、

・阿修羅は顔が3つで腕6本
如来はパンチパーマで、不動明王はオサゲ

等々。

で、伎芸天の特徴は、

「左手に華を盛った皿を持ち、右手は羽衣を掴んでいる」

と、経典に書いてあります。

でも下の画像をみてください。

完っ…全に、無視していますね。

羽衣はないし、手持ち無沙汰で指立ててるし…。


実はこの像、奈良時代のオリジナルは頭だけ。
首から下は壊れてしまってないもんだから、鎌倉時代に新たに補われたものなのです。

だから、これが伎芸天であるということは、寺の資料から推定されているるだけなんです。

特徴とどこも一致しないので、その実、何の像か判ったものではないともいわれます。


◉自他共に認めたオンリーワン

しかし、ぼくの中で伎芸天はこの形でなければあり得ない。

きっと伎芸天の魂が数百年の時空を越えて、名もなき仏師たちに乗り移ったのです。
こっちのからだの方がいいわよ〜って。

そんな奇跡のコラボが生んだ仏像に出会えたことの幸せを、21世紀の我々が噛み締めているわけでございます。

もし、この仏像がもし、決まりに従って作られたものであったならば、果たしてこれほどまでに、人々を魅了しえなかったと思います。

その証拠に、この特徴を完全に無視した、しなやかな指のことを、誇らしく詠いあげた、鈴木光子さんの句があります。

「秋篠の 伎芸天女の印むすぶ ゆび細々と 空に定まる」

ス〜…ピタッ
って、かっっこいぃぃ〜!
なんも言うことありません!

秋篠寺、伎芸天はぼくの心のふるさとです。

●秋篠寺
 拝観時間 AM9:00〜PM4:30
 拝観料 500円
 駐車場あり(無料)


大きな地図で見る