十一面サンタの仏像ばなし

大好きな仏像の魅力を、独断と偏見で書き綴ります。

受難の仏像(和歌山県立博物館)

高野山のお膝元である和歌山県立博物館が、珍しい企画展を開催しているときいて行ってきました。

和歌山県では平成20年ごろから、仏像の盗難が相次いでいました。
2年後犯人は逮捕されましたが、ほとんどの仏像は売りさばかれた後でした。
その後も仏像の窃盗事件は、全国であとをを断ちません。
そんな実状を広く一般の人たちに知ってもらおうと、盗難被害品や損壊された残欠などを公開し、対策を考えるという類をみない企画です。

犯人のアジトには持ち主のわからない仏像がたくさんありました。
つまり、被害届が出されているものについては、持ち主に返還することができますが、住職のいないお寺や、村の片隅にポツンと建てられたお堂にひっそりと置かれている仏像などは、盗まれたこと自体気づかれていないものもあり、被害者が特定されません。

普通、持ち主のわからない盗難被害品は、証拠品として警察で保管され、裁判の結審とともに処分されます。
でも今回は警察の計らいで博物館に預けられ、それがきっかけでこの企画が実現したそうです。
証拠品を民間委託するのは異例なことで、和歌山県警もなかなか粋なことをしてくれます。

展示された仏像は、それはそれは痛々しい状況でした。
首はもげるわ脚は折れるわ、脇侍や眷属が足りないわ…
何代にも渡って村人たちが受け継ぎ、大切に信仰してきたものばかりです。
まあ損壊した仏像は、数知れず見てきたんですが、これが災害や戦争ではなく、欲に駆られたひとりの人間の手によるものだということに、ひどく寂しさを感じました。
当館は展示されている仏像の持ち主を探すという涙ぐましい試みの他、自然災害からいかに文化財を守るかという研究も行っていて、博物館スタッフの危機感、そして本気と気合をひしひしと感じました。


こういう活動は和歌山だけにとどまらず、全国に広がっていってほしいものです。
本当は、無数の文化財を抱える奈良や京都が先頭に立って行わなければならないことなのに。

地方の過疎化とともに、仏像を管理する人の数も減り、盗難が相次ぐ。
今は仏像にとって、まさに受難の時期といえます。
さらに、信仰の希薄化とともに、文化財であるはずの仏像は、もはや日本文化の外に追いやられつつあります。
何百年もの間、人々を支え続けてきた仏像たちがその役割を失った時、彼らは何を望むでしょうか。
今度はわれわれが仏像に恩返しをする、そんな時期が来てるような気がします。



開館時間 午前9時30分〜午後5時(入館は閉館の30分前まで)
常設展入館料 一般 280円
休館日 月曜日(ただし祝日の場合は、その翌平日)
    年末年始 臨時休館日(展示替え期間など)
駐車場 あり

企画展公式サイト
http://www.hakubutu.wakayama-c.ed.jp/junan/frameset.htm


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